Overwrite Save

趣味も仕事も、本気で楽しむオトコのブログ

名勝負師の価値観に触れることのできる良書【決断力(著:羽生善治)】

決断力 (角川oneテーマ21)

本書は、神経を削る「決断」を数多く下し続けてきた将棋界の偉人、羽生善治が書いた新書だ。
今さら羽生善治を語る必要はないと思うので詳細な経歴紹介は割愛するが、史上初めて7つの永世称号を保持するなど、その経歴は飛びぬけている。

<以下、Wikipediaから引用 >

1996年2月14日、将棋界で初の7タイトル独占(1996年当時のタイトル数は7)を達成。
8タイトル(2017年9月現在)のうち、竜王と叡王を除く6タイトルでの永世称号(永世名人(十九世名人)・永世王位・名誉王座・永世棋王・永世棋聖・永世王将)の資格を保持(いわゆる「永世六冠」)。さらに名誉NHK杯選手権者の称号を保持しており、7つの永世称号の保持は史上初。
通算優勝回数153回、公式戦優勝回数142回、タイトル獲得98期、タイトル戦登場130回、同一タイトル戦25回連続登場(王座)、同一タイトル獲得通算24期(王座)は歴代単独1位、一般棋戦優勝回数44回は大山康晴と並んで歴代1位タイの記録である。また、非タイトル戦優勝回数55回、非公式戦優勝回数11回、最優秀棋士賞21回、獲得賞金・対局料ランキング首位22回も歴代1位である。
羽生とほぼ同じ年齢にトップクラスの実力者が集中しており、彼らは「羽生世代」と呼ばれる。

将棋でもスポーツでもビジネスでも、どんな道でも徹底的に突き詰めていくとメンタルコントロールに行き着くと思っている。
そして、本書「決断力」でも、集中力の継続のさせ方、感情のコントロールのさせ方等、羽生さんが真剣勝負の中で見出した「勝負に挑むための勘所」のようなポイントを、羽生さんの視点で書かれている。

要するに、本書は「将棋を指す人」や「羽生ファン」に向けた本ではなく、勝負の世界で生きる人の価値観を感じたり、また自分自身が生きていく中で多くの決断をするための参考にするために読む本である。
特に、仕事でも趣味でも、本気で打ち込んでいる何かがある人ほど、羽生さんの考え方が響くだろうし、必ず何かしら新しい発見があるはずだ。

「勝つ」ことよりも「道を究める」欲求が強い

読んでいて一番響いた件だ。
将棋を指している時、相手がしょうもない手を指すことが癪に障るらしい。相手がしょうもない手を指すということは、その綻びから「勝利」に繋がっていくのだが、そんなことよりも「しょうもない手によって今までに気付けなかった手や可能性に気付くことができなくなることに強い憤りを感じる」ようだ。
大局が終わった後の振り返りでも、その「しょうもない手」を指摘してしまうらしい。

勝ちにこだわる将棋は、将来的にはマイナスになりかねない要素でもある。勝つことだけを優先していると、自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になってしまう。
勝負に勝つことは、企業でいえば目先の利益である。目先の利益も大事だが、先行投資的な研究もしなければならない。

こういった価値観は、何かを極めようとする人に共通の価値観なのかもしれないが、将棋で生計を立てる人にとって「勝ち」というのも重要な価値を持っているはず。
しかし、目先の勝ちよりも、もっと先の可能性や高みを求めるという、絶対的な価値観を持っているからこそ、自分自身の将棋がブレずに、そして誰よりも高い場所まで行けるのだろう。

知識ではなく知恵

現代では、インターネットの普及によって膨大な情報にアクセスすることができる。
羽生さんが生きている将棋の世界も同じで、インターネットを活用することで多くの棋譜を読んだり、多くの棋士の指し方を見ることが出来る。
これは将棋の世界に限ったことではなく、ほとんど全ての事柄に当てはまることだ。

本書においても、情報に溢れる環境の中でどう生きるかについて触れられている。

全部分析していたら時間がかかり過ぎるし、そこにアイデアや見解をつけ加えなければ、役に立たない。
私はパソコンで知った情報は、「その形にどれぐらいの深さがあるか」で、研究するか、しないかを決める。「これは半年もすれば通用しなくなるな」と思えば、それまで。「これは深く掘り下げる余地がありそうだ」と感じられれば、将棋盤に実際に駒を並べて分析・研究を進めていく。
生きた情報を学ぶのにもっとも有効なのは、進行している将棋をそばで皮膚で感じ、対戦者と同時進行で考えることだ。

ただ全ての情報にアクセスしても差別化はできない。いかに価値のある情報を見抜くか、それをいかに自分用にアレンジするか、どれだけ臨場感をもって自分のものにできるか等、情報に対する考え方についても改めて整理されている。
言われれば至極当然のことのように感じるが、実践するのは難しい。


これを読んでいて、あるプロゲーマーの話を思い出した。
そのプロゲーマーは、格闘ゲームで勝負を競い合う所謂e-sportsの世界で生きているのだが、全ての情報を理路整然と分析して「マシン」のように戦い、価値を積み上げていった。周囲からは「つまらない」と揶揄されながらも、論理的に「勝つ」ということだけに拘って勝ち続けていった。
ところがある時、新参のプロゲーマーに負けてしまう。そのプロゲーマーは、戦いの中で「マシンの戦い方」を見抜き、柔軟に戦い方を変えていったのだ。
負け知らずだったプロゲーマーが取った行動は、格闘ゲームとは関係の無い、あらゆる偉人たちの本を読んで勝負に関する考え方や価値観を取り込み、実際に武術を習うことによって戦う人の精神を学んでいった。
こういった取り組みによって、一段上に上り詰めたプロゲーマは、誰もが認める世界チャンピョンの座についている。そして、今でもさらなる高みを目指し続けているという。

これはあるテレビの特集だったのだが、観ていてとてもカッコよかった。
そして、羽生善治の「決断力」に書かれている精神論と多くの共通項を見た気がした。
真剣勝負に生きるということは、知識を知恵に変えていくということなのだ。

まとめ

本書には共感できる箇所がとても多い。
「波を作ることはできないが、波に乗ることはできる」「直感の7割は正しい」「才能は一瞬のひらめきではなく、何十年も同じ情熱を傾けることができること」等、読んでいてなるほどと思えることが多々ある。

こういった言葉は、誰かの受け売りではなく羽生さんが真剣勝負の中で実感したものだからこそ、重みがあり説得力がある。(似たような自己啓発所は多くあるが、やはり薄っぺらいものが多い)

本書を読み終わると、何となく羽生さんの言いたいことが分かった気になるのだが、本当の意味で羽生さんの言いたい事を理解できる時は、きっと自分自身が何かに「真剣」に打ち込み、その結果として自分で気付いた「何か」が、羽生さんの言っていることと一致した時なのだろうと思う。
そういった意味では、本書が持つ本来の価値を実感できるのは、まだまだ先だろう。

決断力 (角川oneテーマ21)

決断力 (角川oneテーマ21)