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自分の悩みなんてちっぽけだ、と思わせてくれる爽快なミステリー小説【キャプテンサンダーボルト(著:阿部和重×伊坂幸太郎)】

キャプテンサンダーボルト 上 (文春文庫)
キャプテンサンダーボルト 下 (文春文庫)

感想

僕は、伊坂幸太郎のファンの一人だ。
そのため「伊坂幸太郎」が書いた作品が発売されるたびに目を通しているのだが、今回紹介する「キャプテンサンダーボルト」を見つけた時には、驚かされた。
なんと他の作家との合作なのだ。それも阿部和重である。

阿部和重について、最初に触れておきたい。
僕は何冊かの彼の小説を読んだことがあるのだが、周囲からの評価が高いにも関わらずデビューからしばらくは大きな受賞はほとんどしたことがないため「無冠の帝王」と呼ばれていたらしい。2005年に「グランドフィナーレ」という小説で芥川賞を受賞しているが、小説家としての知名度は伊坂幸太郎に比べると広まっていないと思う。僕は、芥川賞を受賞した「グランドフィナーレ」で初めて阿部和重を知り、そしてこの本を読んだのだがとても面白いミステリーだった。
そして、『文藝別冊 伊坂幸太郎 デビュー10年新たなる決意』というメモリアル冊子にエッセイを寄せたのが阿部和重である。(この文藝別冊は、伊坂ファンならかならず入手すべき1冊だ)
この辺りをきっかけに2人の親交が深まり今回の共著の企画も生まれたのだと想像される。伊坂幸太郎は東日本大震災を受けて作家を辞めることまで考えていたそうだが、その際に既に企画アイデアが出ていた「キャプテンサンダーボルト」だけはやりたい、と考えていたらしい。

このように、伊坂幸太郎も心待ちにして望んだ本作なのだが、どのように執筆が行われたのかは明らかになっていない。
章毎に担当したのか、シナリオと作文を分担したのか、それは読者の想像に委ねられている。それを想像しながら読むのも、本作の大きな魅力の一つだろう。(これを想像させる、ということも楽しみの一つとして意図的に提供されているのだろうと推測する)

あらすじ(途中まで)

主人公の一人である相場時之は、相場は、いつもヘマを犯してしまい、貧乏くじを引いてしまうことが多いのだが、今回は後輩の女子を怪しい芸能事務所から助け出そうと首を突っ込んだところで、何故か相場自信が借金を負うことになってしまった。
相場は、実の母が実家を売却して借金の返済をしていたことを知り、実家を取り戻すために今すぐにでも大金を手に入れる必要があった。

そんな中、とある怪しい健康水を売る詐欺集団の首謀者をホテルへ呼び出して、取引の末に大金を引っ張ろうと目論んでいたのだが、そのホテルで手違いが発生してしまいロシア人ギャングと鉢合わせになる。
相場は、いくつかのやり取りの末に手違いに気付くのだが、今度はロシア人ギャングと取引をしようと目論む。とはいえ、邪魔な人間は躊躇も無く殺してしまうような連中にまともな取引はできず、逃げる、逃げるの繰り返しだ。

相場は、逃げている最中に偶然再会した幼馴染の井ノ原を巻き込んでしまう。
井ノ原は、面倒に巻き込まれるのは嫌なのだが、息子の病気の治療費で家計が火の車であり、大金が欲しいという動機があったために相場に着いていく。

ロシア人ギャングは、どうも山形県蔵王にある五色沼の水が欲しいらしい。
この五色沼の水は、細菌に侵されており、日本人は予防接種を義務付けられ、沼の周囲は立ち入り禁止となっていた。
一体、五色沼の水にどんな秘密があるのか。かつて第二次世界大戦中の東京大空襲の時、たった3機のB29だけが山形県の蔵王に向かった。遭難ではなく、目的を持って。そして、日本軍は五色沼で極秘に細菌兵器の研究を続けていた。

相場と井ノ原は、五色沼の水を持ってくることを条件に、大金を引っ張ろうとするが果たして。

様々な情報と思惑が入り乱れる中、爽快でポップストーリーが進んでいく。